架空のうっとしいおっさん、「池手名伊三」シリーズ第9弾です。今回はETCです笑
おっさん紹介
自分のことを超カッコイイと思っている、とてつもなく痛い男がいる。
名前は、「池手名伊三」
このうえなく、いけてない男である。齢40にして独身。職業は、しがないSE(システム・エンジニア)。身長、体重は日本の平均172cm、70kg。顔もいたって普通。(自分ではイケメンと思っている)
この男、そのいけてなさ故に数々の伝説を残しているのだが、今回も数ある彼のお話の中から、残念なエピソードを紹介しようと思う。
ETC
「池手名さん、すみませんね。運転してもらっちゃって」
客先へ向かう車中、山本がいぞに言った。ハンドルを握っているのはいぞう。後輩の山本が助手席に座っていた。先輩のいぞうと客先へ車で行くことはたまにあり、普段は山本がハンドルを握るのだが、今日はいぞうがどうしても運転したいということでそうしてもらったのだ。
「いや、いいんだよ。今日はどうしても運転したかったんだ。世直しのためにね」
世直しのためとはどういうことだろう。山本はその発言に不安を感じたのだが、今更運転を変わるとも言えない。
「池手名さん、世直しってどういうことでしょうか?」
いぞうは、ふーっと息を吐き、無言で首を数回横に振った。山本の経験上、いぞうがこういった仕草をするときはろくなことを考えていない。いや、こんな仕草をしなくてもろくなことを考えていないのだが。
「山本、我々をとりまく環境というのは刻々と変化する。そして、そのスピードは凄まじい。違うかい?」
「はぁ、まぁ。そうすかね」
確かにその通りだろうと山本は思った。車の自動運転が実現可能なところまできていたり、AIが人間の仕事を取って変わったり、こんな未来は容易には想像できないかったかもしれない。そして、未知のウイルスが人々の生活を激変させるなど、誰も考えていなかったのではないだろうか。
「変化自体は自然なことだ。それに文句を言っても仕方がない。大事なのは、その変化に柔軟に対応していくことなんだ。それなのに、昔からずっと変わらないものもある。時代に追い付こうとせずにね。僕はね、変わらないことこそ、一番の悪だと思っているんだ」
(この人、ほんとにたまにだけど、いいこと言うんだよな)
「そうですよね。その通りだと思います。僕も時代遅れな人間にならないよう、気をつけたいと思います」
車が、高速道路の入り口に向かって進んでいく。客先までは少し距離があるため、高速道路を使うことにしていた。高速の入り口には「ETC専用」と「一般」レーンがあった。二人が乗る車にはETCカードが搭載されているため山本は当然「ETC専用」レーンに進むものだと思っていたのだが、いぞうはハンドルを切り、「一般」のレーンへ進もうとしていた。
「池手名さん、これECTついてますよ。池手名さん?」
山本はいぞうに声をかけたが、いぞうは返事をせずそのまま「一般」レーンへ入っていった。
「1000円になります」
料金所の人がいぞうに言った。一般レーンでは現金支払となる。
「この車にはETCがついている。だから、僕はこのまま行かせてもらうよ」
「いや、ここは一般レーンですので、現金でお支払いください。ETCをお使いでしたら、ETC専用レーンに入っていただかないと…」
「君、ここのレーンは何のレーンだい?もう一度教えてくれないか」
「いや、だから一般レーンです」
「そう。一般レーンだ。僕はね『一般とは世の中の大多数がそうである』という意味で捉えているんだ。今、ETCの搭載率がどれくらいか、君、知っているかい?」
山本はいぞうが料金所の人に何を言いたいのかわかり、やっぱり自分が運転するべきだと思ったが今さらどうしようもない。山本は1000円を出し料金所の人へ渡そうとした。しかし、いぞうがそれを遮った。
「山本、世直しの邪魔をしないでくれ。さあ、君、ETCの搭載率はどれくらいだい?」
「いや、あの、1000円になります」
料金所の人は困惑しながら言った。
「わからないなら、僕が教えてあげよう。91%だよ。今はもう、9割以上の車にETCが搭載されているんだ。ということはだ、今はETCを搭載しているという方が一般的ということになる。違うかい?」
「あの、1000円…」
「つまり、この一般レーンこそ、ETC搭載車を通すべきなんだよ。僕は君を困らせたいわけじゃないが、どう考えても僕が間違えたことを言っているとは思えないんだ」
「1000円…」
「確かに、ETCが世に出始めたころはETC搭載車は圧倒的に少なかった。だから、一般レーンとETC専用レーンで区別したのはわかる。だが時代は変わり、今やETC搭載車の方が一般的になった。それにも関わらず、レーンの区分けはそのままだ。時代の変化に対して見て見ぬふりをし、君たちは対応を怠ったんだ。これを怠慢といわずしてなんと言うだろうか。君、僕は間違っているかい?」
料金所の人が泣きそうになっているを見て、山本は黙ってられなくなった。
「あの、池手名さん、言ってることほんの少しはわかりますが、今ここで言うべきことではないです」
「いや、今言わないといけない。誰かが声をあげないと何も変わらない。今でも遅いくらいだよ」
「あ、すみません。どっちかというと、時より場所が問題です。ここでいうことではないです。加えて言えば、彼に言うことでもないです」
「どうしてだい?彼は高速道路の料金所で働いているんだよ。ということは、彼にも責任の一端はあると考えるべきだと思うが」
「いや、あのですね…」
(こうなったら、もう何を言ってもダメだ。やはり、自分が運転しておくべきだった…)
後方から聞こえるクラクションや「何やってんだバカヤロー」という怒号を聞きながら、山本は深く反省した。
彼の名は、「池手名 伊三(いけてな いぞう)」
時と場所をわきまえずに的外れな説教をはじめる迷惑極まりない男である。
おわりに
今回もかなりふざけてみました^^;
でも今の時代、ちょっと本気で一般はETCであるべきだと思っています笑
最後まで読んでくださりありがとうございました。