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アルコール依存症の定義とは「物語風アルコール中毒〜なだいなだ著〜」より紹介します

平日禁酒で酒を楽しむ、『平日禁酒ブロガーさかもと』と申します。

なだいなださんの著書、「物語風アルコール中毒」を読みました。

これまで、アルコール関連の書籍を何冊か読んだのですが、その中でも紹介されていたこともありましたし、大好きな中島らもさんも自身のエッセイの中で「1番勉強になった本」と書かれておりましたので、一度は読んでみたいと思っていた本です。

読んでみて、勉強になることが多かったので、今回は自分が「なるほど!」とすごく納得した部分を紹介したいと思うのですが、紹介したい内容が結構あるので、これから数回に分けて紹介したいと思います。今回はアルコール中毒(アルコール依存症の定義)についてです。

物語風アルコール中毒とは

精神科医でもあり作家でもある、なだいなださんが書かれたアルコール中毒に関する本ですが、自身の実体験をベースに非常に読みやすく書かれています。

なだいなださんは、日本で初のアルコール治療専門病棟を持った久里浜医療センターでアルコール専門医として勤務されており、本の内容はそこでのアルコール依存症患者さんとのやりとりがベースとなっていますので、「物語風」というタイトルはそこからきています。

ですので読み物としても非常に面白いのですが、患者さんとのやりとりの中にお酒に対する理解を深める金言が散りばめられていますので、お酒の勉強にもなる本です。

読みながら、「なるほどなぁ」と感心したり、患者さんの言い訳を読んで「わかるわかる」と共感を覚えたりしました(笑)

それでは、色々と勉強になった本ですが、その中でも特に印象に残った箇所を紹介していきたいと思います。

アル中のものさし

「この人はアル中に違いありません!」

「いや、俺はアル中じゃない!」

こういった奥さんと旦那さんのやりとりが繰り広げられる場面がよくあるそうです。

お酒好きな人は自分の中に「アル中の定義」みたいなものを持っていることが多いです。例えば、「酒が切れて手が震えたらアル中」や「休みの日、朝から飲むようになったらアル中」などです。そして、自分はそこまでいってないから「俺はまだアル中じゃない!」となるわけで、このロジックは僕もとてもよくわかります^^;

しかし、お酒を飲まない奥さんからすると基準が違うわけです。例えば、「酔って暴力を振るうようになった」「飲んだ時のことを全く覚えていない」など、このようなことがあれば「もうこの人はアル中だ」と判断する。

なだいなださんはこのやりとりの『もう』と『まだ』に注目し、そういう患者さんには次のように説明したそうです。

「君はどうなれば自分がアル中だと思う?」

「手が震えたり、幻覚を見るようになればアル中だと認めます」

「なるほど、ではその状態になるには、どれくらいの酒をどれだけの期間飲み続けないといけないだろう?」

「長い年月が必要だと思います」

「そうだね。その状態をアル中終着駅だとすると、人によってその駅に着くまでの時間は違うだろう。十年でそうなる人もいるだろうし、もっともっと時間をかけてそこへ到達する人もいるだろう。それは言い換えると、アル中への旅路を十分の十、歩いたということだ。あなたもいずれはそうなるだろう。あなたはまだ幻覚が出ていないというが、十分の九くらいまでアル中の旅路を来ているのではないだろうか。家族の方は「もうアル中」と言っているのだから、あなたが十分の十、歩いたと思っているに違いない。あなたたちは今ここでアル中であるかないかを言い争っているけれど、実は十分の一の違いを言い争っているだけじゃないかね」

出典:物語風アルコール中毒

文章割愛してますが、おおよそこのような感じです。

これを読んで、なるほどなぁと思いました。そして、この説明で納得された患者さんは入院治療を受け入れられるそうです。おおよその酒飲みは「自分はまだアル中じゃない」と思うから飲み続けてます。しかし、間違いなくアル中終着駅へ進んでいるという事実は変わらないのですね。

アル中新幹線

しかし、この説明で納得されない患者さんもいるようです。たまにしか飲まず、お酒を自分の意思で飲んでいると信じている人たちがそうであるとのこと。

病院へ来る人はお酒に自由を奪われている人達なのですが、その状態を理解させるためには次のような例え話をしたそうです。

あなた方は自分の意思でアルコールを飲んでいる。だから自由がないとは思わない。でも、アルコールをやめようとしなければ、自分が自由を失っていることを感じ取れない。

ひかり号の乗客たちは、自分の意思で電車に乗ったから、電車の中に閉じ込められているとは思わない。しかし、何かの理由で降りようとする。そこで初めて、自分に自由がないことが分かる。降りようとしても次の停車駅の名古屋まで、降りる自由がないのだよ。しかし、それに気がついていないのだ。自分は、まだ豊橋だ、まだ浜松だ、まだ名古屋に着いていないと思っている。窓から見る風景は確かにそれを示している。しかし、ひかり号は名古屋まで止まらない。だから、遅かれ早かれ名古屋に着く。それは時間の問題でしかないんだよ。その間、乗客は電車に閉じ込められた囚人なんだ。それが自由を失っている状態だ。

やめようとして初めて自由がないことがわかる。まだ豊橋だ、まだ静岡だといって、降りる自由のないことに気がつかない新幹線の乗客のようなものさ。アル中ではない、まだ終点までは行っていない、といっているけど、自由を失っていることに気がつかない。悪酔いするだけで、毎日飲まない人も、酒を飲んでは世間的に失敗を繰り返していれば、終着駅は人生の破綻だ。まだ、そこまで行かないさ、と思っているのだろうが、あなただってしたくて失敗をしているわけではあるまい。酒に自由を失っているから、飲んでは失敗するんだ。その点で、新幹線の乗客のように、自分が囚人であるという状況が見えていないのさ。

出典:物語風アルコール中毒

実はこのアル中新幹線の話は中島らもさんのエッセイでも紹介されていたので知ってはいたのですが、この本を読んで理解が深まりました。ほんとに、その通りだと思います。

ちなみに、僕は平日禁酒を頑張っているのですが、お酒に自由を奪われていることは自覚しています^^;

これまで何度、朝に「今日は飲まない!」と決めてその日の夜飲んでしまったことか!笑

お酒に自由を奪われている何よりの証明かなと思います。。。

アルコール中毒(アルコール依存症)の定義

「何をもってアルコール中毒というか、その診断の物差しは?と問われると、説明は簡単ではない」

となだいなださんは本の中で書かれています。だから、先に紹介したような例え話をしたり、説明を工夫されたそうです。

しかし、患者さんを納得させながら自分なりにアルコール中毒とは何かを考えられたそうで、内面的、外面的にみて以下のように言われています。

内面的:アルコールに対する自由を失った状態
外面的:アルコールを辞めねばならないところに追い込まれた人たち

僕は内面的なところに当てはまります。。。

また、この物語の舞台となっている久里浜医療センターが作成されている依存症スクリーニングテストがあって、こちらも一つの指標になるのではないかと思います。

僕は男性版のテストをしてみたのですが、「アルコール依存症の疑い群」でした^^;

最後に、昔はアルコール中毒、アル中という言葉が一般的でしたが、最近は「アルコール依存症」の方が一般的になってきています。そのあたりについてもふれられていたので紹介しておきます。

昔は、酒をやめるところに追い込まれるのは、ほとんどが中毒者だった。だから「アル中」という名前が、それらの人たちを代表したのだ。この病気の映画が何本か作られたが、「失われた週末」や「居酒屋」などでは、幻覚や振戦せん妄の場面が見どころだった。

しかし現代社会では、中毒者以外にも、酒をやめなければならないところに追い込まれる人たちが増えてきた。我々の生活が変わったからだ。ほとんどの人がサラリーマンとして生きている。より管理され生きている。だから、中毒者以外にも、酒をやめなければならない人が増えた。二日酔いで無断欠勤を繰り返す人間は、酒をやめなければクビだといわれる。悪酔いして二階から憲兵に小便をかけた男は、戦争中は豪傑だったが、今では警察官とトラブルを起こし、留置場に留め置かれた人間は、会社に知られないように必死になる。

彼らも、酒をやめなければならなくなる。中毒という名がぴったりしなくなってきたはずだ。

出典:物語風アルコール中毒

おそらく、「アル中」という言葉が一般的だった昔は映画で描かれていたような人をさして「アル中」だったのでしょうが、自分は二日酔いで無断欠勤を繰り返す人など、十分に「アル中」だと感じてしまいます。

「アル中」という言葉に明確な定義がないので、この文を読んで少し違和感を感じた自分のように、「アル中」という言葉のイメージは受け取る人によって違うのだと思います。

ただ、「アル中」という言葉に対して映画で描かれたような人をイメージする人が多いのであれば「アルコール依存症」という言葉の方が今の時代適切なのかなと思います。

おわりに

今回は物語風アルコール中毒の中からアルコール中毒の定義の部分について紹介してみました。もちろん全ては紹介していませんが、なだいなださんと患者さんのやりとり、ほんとに面白いし、勉強になります。

次回は、アル中が心の病気と認識される経緯について紹介したいと思います。

「意思が弱いからお酒がやめれないんだ」

「これだけ言ってもお酒がやめれないなんて、家族を大切に思っていないからだ!」

みたいなことを言われる患者さんも多いらしいのですが、この考えから始まり、心の病気へと認識が変わっていきます。※こちらの記事で紹介してます↓

「アル中」は心の病気。では、どのようにしてそうなったのか?「物語風アルコール中毒〜なだいなだ著〜」より紹介します

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

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禁酒ブロガーさかもと

本業の傍らでシナリオも執筆するソフトウェアエンジニア。 毎日浴びるように飲んでいたが、将来を考え禁酒に挑戦する。1年の禁酒に成功後、週末だけは酒を解禁し、平日禁酒で酒を楽しめるようになる。その後、すこぶる順調な毎日を過ごせている。※過去、自身の禁酒の取組み方について日経新聞さんに紹介された実績があります

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