間があいてしまいましたが、今回はブログ小説【デリートマン】の続きを書いていこうと思います。前の話はこちら↓
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ブログ小説【デリートマン】⑨
デリートマンの友人①
「いいなぁ。たこやき、串カツ、手羽先ー。大阪いいなぁ」
ようこが洗い物をしながら、こちらを見ずに言う。
「たこやき、串カツは合ってるけど、手羽先は名古屋」
大阪への期間限定移動が決まったのは先月の末だった。田坂が東京に来る際、担当を引き継いだ社員が交通事故で急遽入院してしまったのだが、大阪のメンバーは今手一杯でとてもフォローできる状態でないらしく、元々田坂の担当ということもあり大阪支社から田坂へ応援の依頼がきた。
東京メンバーも忙しかったが、国重がうまく調整して、何とか短期なら田坂の仕事をフォローできそうとのことで、田坂の大阪移動が決まった。期間はその社員が退院するまでで、2、3ヵ月とのことだった。
堀越信也を消してから1ヵ月が経ち、11月になっていた。
「そうだっけ?手羽先が一番楽しみだったのになー。ともくんが大阪にいる間、最低でも5回は行くから!」
2、3ヵ月しかいないのに来すぎである。
「一応言うとくけど、遊びに行くんやないからな」
「わかってるー。あー、たのしみー」
ぜんぜんわかってそうにない。しかし、堀越を消してからずっと心に靄がかかったような状態が続いていたので、このタイミングで地元の大阪に帰れるのはありがたかった。
(気分転換になるかもしれないな)
堀越を消してから一度もデリートサイトは立ち上がらなかったが、大阪出張が決まった日の夜に、久々に立ち上がった。「パソコンを大阪に持っていけ」ということだったが、元々仕事で使うのでそのつもりだった。
そのとき堀越を消してしまったことが正しいかどうか聞こうとしたが、やめておいた。どうせ答えなんてない。あったとしても、納得できる自信なんてなかった。
「ともくん大阪にいる間は実家にいるの?ともくんのご両親にも会いにいこうかなー。私も来年30になるしなー」
そう言ってチラっとこちらを見る。
「いや、会社がウィークリーマンション借りてくれてるから基本はそこで生活する。実家にも行くやろうけど」
大阪支社は大阪城にほど近い大阪ビジネスパークにあり、その隣の京橋駅に会社がウィークリーマンションを借りてくれていた。京橋から大阪ビジネスパークまで少し距離はあるが、十分に徒歩圏内だ。
「じゃあともくん実家いるとき、ご両親にも会いにいこうかなー。私も来年30になるしなー」
もうすぐ30歳をかぶせてこなくても大丈夫だ。ちゃんとわかってるし、こっちにもその気はある。
「喜ぶと思うよ。よーしゃべる娘好きやし。言うとくわ」
口には出さないが、両親は早く結婚してほしそうなので、ようこを連れていくと喜ぶだろう。
「やったー!1番の楽しみができたー!」
純粋に喜ぶ姿を見て、素直に可愛いと思う。1度結婚に失敗しているが、もう二度と結婚なんて嫌という訳ではないし、この子となら結婚しても大丈夫だと思う。なので、本気で結婚について考え出していたのだが、デリートサイトの出現でそれどころではなくなっていた。しかし、この子には関係のない話だ。ちゃんと考えないといけない。
「友達にも紹介するよ。みんなおもろいやつらばっかやで」
大阪は地元なので仲の良い友人がたくさんいるが、そのとき高校時代、一緒に野球をやっていた仲間を思い浮かべていた。
「やったー!!なんかお土産買っていって友達にも渡すー」
「ええよそんなん。そんな気ぃ使うやつらやないから」
そう言ったが、ようこは「なに渡そうかなー」などと呟いていた。
「あ!そう!高校時代のマネージャーさんと結婚した人…え~っと、中元さんだっけ?そういう結婚ってステキだよねー。会えたらいろいろ聞いてみたいなー。たのしみー」
(中元か、彩美となんか変な感じだったな)
高校時代、野球部で仲間だった中元とマネージャーの彩美。この二人が結婚したのは今から10年ほど前だ。子供はいなかったが、夫婦仲はとてもよかった。
そして、半年前大阪に帰り高校時代の野球部仲間で集まったとき、彩海の妊娠を聞いた。予定日は来年の1月とのことだった。このタイミングで?と驚いたが、みんなで祝福した。
ただ、そのときの二人の様子がいつもと違う感じがした。めでたいことなのに、二人とも心の底から喜んでいる感じに見えなかったのだ。二人とも、結婚当初から子供を望んでいたはずなのにである。
(中元、あいつ大丈夫かな)
しばらく大阪にいるし、帰ったときゆっくり話を聞いてみようと思った。
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「そうそう、田坂な、大阪帰ってくるらしいで」
ビールを飲み干し、空になったグラスをテーブルに置いてから、中元一平は言った。
「ともが?また転勤?」
グラスにビールを注ぎながら、妻の彩美が聞き返す。
中元と彩海は高校時代の同級生であり、部活も同じ野球部だった。中元が選手で、彩美がマネジャーだ。高校時代、中元は特に彩美を意識していた訳ではないが、卒業して大学、そして社会人になってからも、定期的に野球部時代の集まりはあったので、疎遠になることはなかった。
「あのさ、彩美の前であんま付き合ってる彼女の話とかしたんなよ」
中元が同じ野球部の友人、田坂にそう言われたのは大学を出て社会人になりたての頃だった。
(もしかすると、彩美は自分に気があるかもしれない)
それは中元自身もうすうす気づいていた。高校時代は仲間として自分を見ていた彩美の目が、大学4年になったあたりから異性を見る目になっている気がしていた。
それに気づいてから、中元も彩美のことを女性として意識するようになっていった。中元には学生時代から付き合っていた彼女がいて、卒業後も関係が続いたが、それほど好きという感情はなく、別れる理由がないから続いているという状態だった。そして卒業後、中元は完全に彩美のことを女性として意識するようになっていた。だから、意識的に彩美の前で付き合っている彼女の話をしていた気もする。
(小学生が好きな子にいたずらするのと大して変わらないな)
そう思って自分のことが嫌になることもあったが、そのとき、彩美が悲しそうな表情をするのを見て、彩美の気持ちを確認していた気がする。それを田坂に指摘された。
田坂は基本的にバカなやつだが、意外とこういうところに気がついたりする。それから数ヵ月後、田坂に誘われ飲んだのだが、そのとき田坂に、「彩美と付き合ったら?」と言われた。後から知ったことなのだが、彩美がこの日の数日前、田坂へ自分が好きだという気持ちを伝えて相談していたらしい。
そして田坂は、自分の行動などを見て、自分も彩美に気があることに気づいていたのだろう。だから、「付き合ったら?」と提案してくれたのだ。そして、当時の彼女とは別れ、彩美と付き合い出した。付き合っていた彼女との関係は冷え切っていたので別れるとき特にもめたりはしなかったが、
「私のこと、好きでもなんでもなかったでしょ?」
と言われた。
「そんなことない」
反射的に答えたが、そうだったのかもしれない。なぜ一緒にいたのか理由を考えてみても、見つからなかった。彼女が何を望んでいたのかも知らない。いや、知らないというより考えようともしかった。そういう気持ちを表すとき「好きじゃない」という言葉は適切な気がする。彩美は、違った。付き合いは長いはずなのに、一緒にいると、どんどん知らない部分が出てきた。そして、彩美という女性を知れば知るほど好きになっていった。一緒にいる理由は一緒にいたいからだ。これが好きということなんだなと中元は思った。
付き合い始めて2年後に彩美と結婚した。お互い25歳のときだった。田坂はじめ、野球部時代の仲間は自分のことのように喜んでくれた。結婚後も夫婦生活は良好だった。
彩美が子供のできにくい体だったこともあり子供はいなかったが、それでも十分幸せだった。
子供がほしくないと言えば嘘になるが、彩美がいてくれればそれだけで幸せだったので、不妊治療をしてまで子供がほしいとは思わなかった。本当に彩美がいてくれるだけでよかった。
彩美は子供ができないことで自分を責めることもあり、一度、泣きながら謝られたことがあった。
しかし、そのときに、これまで言ってきた自分の気持ち、つまり彩美がいればそれだけでいい。という気持ちが本心であることを伝えると、心の底から喜んでくれた。初めて、本気で人を好きになれた気がした。このときは、そう思っていた。
しかし、2年くらい前から彩美が子供をほしがり出した。不妊治療にも通いたいと言い出した。年齢的なこともあるので、無理しないでおこうと言っても、聞かなかった。そして、奇跡に近いことだが、何とこの春先に彩美が妊娠した。予定日は来年の1月ということになっていた。
(子供が生まれたら、もう…とにかく、今のままやったらアカン…田坂が少しの間だが大阪に帰ってくる。話を聞いてもらおう。たぶん、前に会ったとき俺たちがギクシャクしていることに、あいつは気づいてるはずだ)
「転勤ってわけやなく、2、3ヵ月の期間限定みたいやわ。帰ってきたら田坂誘って飲みにでもいこうか」
「そやな。ともと最後に会ったの半年くらい前か。久しぶりにみんなで集まって、何も考えずに笑いたいわ」
(普段はいろいろと考えているのか。いや、オレが考えさせてるのか)
テレビでは、このところずっと取り上げられているタレントとミュージシャンの不倫ニュースが流れていた。
「これさ、一緒にホテルおる写真が出てきてるのに、友達です。はないよな。せめて最後は潔くあってほしいわ」
(せめて最後は潔くあってほしいか。オレは…)
「そやな、どう考えても苦しいわな」
(オレは、潔くあれるのか、彩美より、今は…オレは…ちゃんと言えるのか)
テレビでは、司会者が不倫された妻に対してSNSなどで多数の同情コメントが寄せられていることを紹介していた。
おわりに
10月、小説の更新をさぼってしまいましたが、またぼちぼちと続きを進めていきたいと思います。
今回も最後まで拙い文章につきあってくださりありがとうございました。
次の話はこちら↓
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ブログ小説【デリートマン】⑪